聴泉閣かめや という宿に泊まる

20210828

聴泉閣という宿に泊まる。

この宿は島崎藤村が夜明け前という代表作を執筆した際に使用した宿らしい。

部屋も富士の間。

実際に執筆した際に使用した部屋。

その名の通り出入り口のふすまに富士山の絵が描かれている。

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佳夕

その左横に水面に落ちる夕日が描かれており、富士山と夕日のありえないツーショットである。

なぜわかるかというとふすま左下のこの絵のタイトルからそう読み解けた。

「佳夕」というのがこの絵のタイトルだった。

意味は以下のとおりである。

>いい夕方。景色が美しい夕方。「佳」は、 すぐれているという意味を持つ。

はて、

初めて見たとき、この絵に描かれている水面に沈む太陽は夕日ではなく朝日に見えた。

なぜかというと富士山は日本の東側にあるし、太平洋は駿河湾に面しているからである。

ということは「この太陽は朝日だな」と思うのが一般である。

また、夕日を望もうと思っても北アルプスの3000メートル級の山々に阻まれてふつうは見ることなど不可能だ。

しかしこの絵は面白い。

朝日と夕日の書き分けとして水面に移る太陽の光は赤く描かれている。

朝日の場合水面には太陽の光はきらきらと輝くように見えるのでそのような表現にはならないはず。

また、もう一つ面白いのは富士山の向きである。

富士山は静岡と山梨で見え方が変わる。

静岡側から見ると宝永山という山が右端にでっぱりとして見えるのが特徴。

山梨側から見るとほぼきれいな円錐に見える。

この絵には明確に宝永山が描かれていることから静岡側から望んだ富士山であることが分かる。

作者の思う非現実的な要素を盛り込むことで作品としての不思議な世界観をうまく演出してくれていることがうかがい知れる。

 

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障子に映る紅葉

これは朝7時に起きた時の障子の様子である。

このすぐ裏には庭園があって紅葉が植えてあるので日中は「やはり庭園には紅葉かぁ」くらいの感じで見ていた。

しかしどうだろう。

朝起きてみると写真のように木漏れ日が障子に当たって一つの絵のようになっている。

こんな景色はいろいろな旅館に泊まってきたがここが初めてだ。

ここまで意匠を凝らした宿は見たことがない。

さすがに名だたる文豪が泊まるだけはあると思った。

 

また、この旅館はとても歴史のある旅館である。

江戸時代は皇女和宮や参勤交代の諸大名の寝所、明治初期、旅館として営業を開始後は、芥川龍之介与謝野鉄幹・晶子、島崎藤村ら諸文豪が宿泊したらしい。

庭園についても築城の名人であった小堀遠州という人物が庭園を手掛けている。

部屋の窓からのぞける庭園には池があり鹿威しがあり水の流れる音がしてセミの鳴き声がする、なんとも心を落ち着かせてくれる空間である。

林泉式庭園というらしい。(詳しい人教えて)

地理的には中山道甲州街道のちょうど交わる点に位置する宿であり、本陣跡がすぐ横にある。

また上諏訪神社もすぐ隣にあって交通の要衝であることがうかがえる。

道も直線的ではなく遠くが見通せないようにうなっているので旧街道の名残も匂わせる。

 

上記のようなことにつてもいろいろ補足していくとかなり長くなるので割愛するがとても魅力的な旅館であることは間違いない。

落ち着いたころに一度お邪魔することをお勧めします。

おそらく秋ごろに行くと庭園の紅葉が見事に色づいて絶景を見せてくれると思います。