電子負荷の設計製作4

本稿も4部まで来るとなかなかボリューミーだなと思うわけですが、前回の記事はさほど何も書いてないようなものなので実質これが製作記3といっても過言ではない。
ということで今回は何をしようとしてるか話す。
まず、前回までの課題を書き上げてみた。

1.FETの発熱に対しての対策
2.発熱対策のファンが常に100%ブン回しでうるさい
3.FETを3パラにしたことで負荷容量が上昇し、OPアンプが発振
4.リファレンス回路にオシレーターをつないでプログラマブル動作できないか検討

ざっとこんな感じ。
で、1つ目に関しては前記事でも書いたようにFETを増やしてヒートシンクに取り付けることで解決。
今回は2と3について解決するための方法を更新したので記述する。

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電子負荷回路 修正版

2.発熱対策のファンが常に100%ブン回しでうるさい
これについては動作イメージを下記のように考えていた。

25℃ →ファン動作なし
50℃ →ファン10%動作
75℃ →ファン100%動作
85℃ →回路停止(FET保護のためすべての回路が停止する)(1秒停止後リトライ)

この動作をするにあたってヒートシンクの温度測定でサーマルモジュールを使う。
MCP9700 というやつで秋月で買える。
5V動作なので別途レギュレータが必要。
出力電流は0.1mAで貧弱。バッファする必要がある。
だいたい10mV/℃で電圧遷移する。
0℃で500mVのオフセットを持っており、各温度において出力電圧は次のように換算される。

0℃   →500mV
25℃ →750mV
50℃ →1000mV
75℃ →1250mV
85℃ →1350mV

この出力電圧をオペアンプでバッファする。
前回はVrefを生成するために1ch使用していたが回路をスマートにするため定電流回路に置き換えた。
で、オペアンプで直接ファンを駆動できないのでさらにトランジスタで負荷を駆動する。
オペアンプは電圧駆動でありトランジスタは電流駆動なので、その変換はベース抵抗に任せる。
トランジスタTTC015Bというのはオーディオアンプの励振段に使用されるもので、小信号を受けて最終段のパワーアンプ部をバッファするためプリバッファとか言われたりしているらしい。(詳しくないのですいません)
で、このTTC015Bのhfeをだいたい100だと仮定し、ファンの最大負荷電流を1Aと仮定すると次のようなことになる。

このようにアンプでの倍率を1倍にして68Ωのベース抵抗で受ければIbをちょうど100倍したIcは想定のMAX温度85度付近でちょうど1A程度になる算段が付いた。

3.OPアンプの発振
アンプが発振するのはなぜでしょうか。
よく聞くのは「位相回転が起こるからだ」というものです。
”位相””回転”これだけでは何のことかわかりま千年。座布団とり揚げ。手羽先うまし。(は?)
で、基本的に発振というのは出力を入力に返して出力の値を一定に保つような動作をしている系の中で生じます。
つまり発振は制御工学の対象になります。
制御工学の中でも最も古典的なものがPI制御です。
今回のOPアンプで用いている制御も実はPI制御になります。
上記回路においては電流をシャント抵抗の電圧値に変換してそれをオペアンプの入力端子に返します。
また、比較値としてVrefをもう一方の端子に返します。
そしてその値の比較を行い、乖離している電圧量分を出力電圧としてFETのGateに印加してシャント抵抗の電圧降下分が目標値に収まるまでその動作が連続します。
このときシャント抵抗からの電圧降下分をフィードバックして出力電圧に変換するまでのOPアンプの動作にタイムラグが生じますが、それと同期するような周波数帯においては
入力電圧の上昇を感知⇒OPアンプが電圧を下げる⇒すでに入力電圧は下がっている⇒OPアンプは電圧を上げようとする⇒すでに入力電圧は上がっている⇒。。。
というようなイタチごっこ(ループ)にはまってしまい、この状態の事を発振と呼びます。
具体的に発振についての定義があります。

バルクハウゼンの発振条件
1.フィードバック・ループ内の利得が1以上
2.フィードバック・ループを一回りしたときの位相のずれが360°以上

上記のような条件を満たすとき発振が起こってしまいます。
ここでOPアンプを使う際に発振が起こる主な原因としてはやはり位相回転です。
位相回転といいますがつまり位相がずれてしまうことが原因なわけです。
位相というのは相対的なズレの事を言いますからどこか基準となる端子の電圧をとった時に相対的に別の端子の位相が何度ズレているか、というのが位相差を表すために必要なことです。
ここでは何処と何処の電圧の位相差を見るかというとオペアンプの入力と出力です。
上記でも示した通りイタチごっこが生じているのがこの端子です。
で、入力端子に対して出力端子の位相を見ていきますが、バルクハウゼンの発振条件において360°の位相差が生じている場合に発振が生じるということですが、今回のOPアンプの使い方は反転増幅になるので入力と出力の位相差はすでに180度回転していることになります。
これによって値の変動に対して負の値を返すことで振動を抑え込んでいます。
で、そのままでは別に位相回転は生じないですが、交流成分ではLとCの影響を考慮しなければなりません。
このときLとCは周波数特性を持っていて周波数の増加に伴いインピーダンスと位相差が変化します。
今回の回路ではFETの入力容量がC成分として寄与し、それがOPアンプの出力端子についているのでそこで位相遅れが生じてしまい360°の位相回転が生じてしまう周波数帯が存在することになります。
OPアンプの出力特性によってどの程度のC成分までを許容できるかは違ってきますが、いずれにしろあまり大きなC成分を許容できるOPアンプはあまりありません。
ですので基本的にOPアンプを使う場合はフィードバックループ内にC成分を入れないように設計します。
ですが、今回のような回路構成の場合にどうしてもC成分をもつ負荷を駆動しなければならない場合においていくつかの対策があるのでそれを紹介します。

1.出力端子と入力端子にスピードアップコンデンサを付ける(C4)
2.出力バッファをすることでより強くコンデンサを駆動する(Q4,Q5)
3.直列にコイルを接続することで位相を戻す(L1)

上記のような対策がされるということで新規設計の回路図ではそれら改造が行えるようにランドを追加しました。

発振についての話が長くなってしまいましたがなかなか難しい現象で、OPアンプを使う上で避けては通れない問題ですので細かく書き記しておきました。
興味がある方は対策に関する記事なども探してみると面白いですよ。

それではまた。